遊休農地をサツマイモで再生、ブランド確立目指す松や農園(田村市)

▼葉タバコ後の地域を支える新たな作物に

 田村市船引町の「松や農園」は、葉タバコに代わる地域の産物としてサツマイモ生産のほか、干しいも、甘酒、スイーツなどの6次化にも積極的に取り組んでいる。代表の佐藤松美さんは「地域の遊休農地を減らし、農村環境を守りたい」と語るように、強い思いを6次化の実践で形にしてきた。

▼営農指導員から早期退職で農業の道へ

 佐藤さんは田村市船引町生まれ。県農業経営大学校(現・県農業総合センター農業短期大学校)を卒業後、青果市場を経て、1988年に旧船引町農業協同組合に就職し、営農を担当する。実家がトマト農家で、定年後に後を継ぐ意志は持っていたが、「体力があるうちに」と55歳で早期退職。両親の野菜作りを受け継ぎながら、新規でサツマイモ栽培に取り組んだ。

▼6次化を見据えてサツマイモを選択

 就農前から6次化への関心は強く、サツマイモを選んだ理由も明確だ。青果として販売するだけでなく、干しいも・焼きいも・甘酒・酒類など加工の選択肢が多く、冬場の収入が落ち込みがちな野菜農家にとって安定化を図りやすい作物だったからだ。現在の栽培面積は約120アールで、年間約25トンを生産。そのうち7割を青果として郡山市・田村市のJA直売所で販売するほか、干しいもなどの加工用に使用・販売している。

▼変わる田村地域の農業、加工施設の稼働で追い風

 就農から6年たち、当初描いた構想は「ほぼ実現できている」と振り返る。葉タバコ廃作に伴う遊休農地の解消が緊急課題となっている田村地域では、サツマイモは春の植え付けの後、収穫まで中間管理が要らないことから、行政の奨励もあり栽培面積が増加。4年前に建設された貯蔵庫に加え、12月には加工施設が本格稼働する予定で、増産に向けた環境が整ったといえる。

▼干しいもの“田村ブランド”化へ生産者の連携目指す

「これまでは生産者は点でしかなかったが、私も他の生産者と一緒に、 “田村ブランド”の干しいものを作って、農家の所得アップにつなげていきたい」と、瞳をひときわ輝かせた。

(2025年11月13日取材M)

■名称:松や農園

■住所:〒963-4204 福島県田村市船引町堀越下牡丹38

■URL https://www.facebook.com/umaihoshiimo/
■連絡先:0247-85-2660

写真トップ:収穫後、より甘さを引き出すため、専用貯蔵庫で2ヶ月熟成させる。また、干しいも加工で出る切れ端を有効利用するため、県内の酒造メーカーとタイアップして甘酒を製品化、フードロスにつなげている。

写真2:収穫12月から2月まで週3回、市内の直売所で妻の富美子さんと対面販売を行う。「『おいしかった』というお客様の声が、やりがいと自信につながる」と、シンプルながら重要な販売手法と位置付ける。

写真3:ねっとりと甘い「紅はるか」を主力に3品種を栽培し、収穫の際には傷がつかないよう、手作業で土を落とす。「手間はかかるが、これが最善の方法」との言葉に、良質なサツマイモ作りへのこだわりがにじむ。